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著作権法令和8年改正(実演家に対する二次使用料の範囲の拡大)

 弁護士 小倉秀夫

 令和8年6月の著作権法改正の内、商業用レコードに録音された実演についての二次使用料に関する部分について、以下のとおり解説します。

一 商業用レコード

 レコードとは、「蓄音機用音盤、録音テープその他の物に音を固定したもの(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)」をいいます(著作権法第2条第1項第5号)。私が日常用語で「レコード」すなわちソノシートを含むビニールレコードだけでなく、音楽CD、SACD等であって、すでに音楽等が記録されているものがこれにあたります。

 これに対して、DVDやBlu-rayのように、音楽や役者の台詞、効果音等が記録されているにせよ、それらの音は映像とともに再生されることが予定されているものは、そもそも著作権法上の「レコード」にあたらないということになります。最近は、音楽CDを購入すると、そのバンドのライブでの演奏が収録されたDVDやBlu-rayが同梱されていることがしばしばあります。このDVD等に収録されている実演について再生する分には、音だけを再生したとしても、二次使用料の支払義務の対象外ということになります。

 商業用レコードとは、「市販の目的をもつて製作されるレコードの複製物」をいいます(著作権法第2条第1項第7号)。すなわち、音が固定(記録)されている媒体が「商業用レコード」にあたるかどうかは、その媒体に音を固定した目的がどのようなものだったかによって決まります。

 どのような音が固定されていようが音が物に固定されていようが「レコード」であることに変わりなく、市販の目的をもって製作されていれば「商業用レコード」であることには変わりありません。ですから、例えば、新幹線を含む列車のドアの開閉音を収録したCD等も、市販の目的で製作すれば商業用レコードになります。

 ただし、実際に市場で流通している商業用音楽の大部分は、人が演奏したり歌唱したりして発した音を収録したものです。この、人が演奏したり歌唱したりして発した音のことを著作権法では「実演」といいます。そして、その実演を発した人のことを著作権法では実演家といいます。

二 実演家の著作隣接権

 実演家は、自分の実演の特定の方法での利用について専有権を付与されています。専有権とは、自分だけがその方法でその実演を利用する権利です。この実演家がその実演について持つ専有権を、著作隣接権といいます。

 実演家の著作隣接権は、複製権、放送権、有線放送権、送信可能化権です。実演家は、これらの著作隣接権を全部まとめて、またはその一部を第三者に譲渡することができます。実演家がプロダクションと専属実演家契約を締結した場合、契約期間中にその実演家がおこなった実演については、著作隣接権はプロダクションに譲渡されることになっているのが通例です。

 実演家の著作隣接権が著作権と一番大きく異なるのは、著作隣接権(のうちの録音権・録画権)を有する者(実演家または実演家から録音権・録画権を輾転譲渡を受けた者。以下、「録音権者」「録画権者」といいます。)の許諾を受けて複製がなされると、いきなりその排他性が弱くなる点です。

 今回取り上げる令和8年改正に関連する部分についていうと、録音権者の許諾を受けて録音されている実演を放送しまたは有線放送する分には著作隣接権侵害とはならなくなります(著作権法92条第2項第2号イ)。

 ただし、あくまで録音権者から許諾を受けて特定の媒体に録音した実演をそのまま放送等することが必要です。例えば、私的使用目的で実演を特定の媒体に録音すること自体は著作権法第102条第1項により準用される著作権法第30条第1項により適法となりますが、このように作成された録音物は録音権者の許諾を得て作成されたものではないので、そのような録音物を用いて放送等を行う場合は、別途著作隣接権者の許諾が必要となります。

 レコード会社は、音楽CDをプレスして販売するにあたっては、その音楽CDに収録されている実演の録音権者(実演家または実演家から録音権の譲渡を受けた者)の許諾を受けています。したがって、放送局などが、正規ルートで市販されている音楽CD自体を用いてそこに収録されている実演を放送したり、有線放送する分には、別途許諾を得る必要がありません。

 これに対し、録音権者の許諾を受けて録音されている実演を送信可能化するには、原則実演家の許諾が必要となります(著作権法第92条の2第2項第1号の反対解釈)。ただし、録音権者の許諾を得て商業用レコードに録音されまたは送信可能化されている実演(送信可能化権について著作権等管理事業者による管理が行われているものなどは除きます。)については、放送事業者、有線放送事業者又は放送同時配信等事業者は、これを放送時同時配信等することができます(著作権法第94条の3)。

三 二次使用料請求権

 とはいえ、実演家としては、自分の実演が自分の許諾なしに放送・有線放送され、ひろく公衆に享受されているのに、そこから何の利益も得られないというのでは、とても困ります。放送・有線放送される実演を視聴するだけで満足されてしまうと、正規の音楽CDを購入してもらえなくなります。

 そこで、著作権法は、放送事業者または有線放送事業者が、録音権者の許諾を得てその実演が収録されている商業用レコード(正規ルートで市販されている音楽CDは通常これにあたります。)自体を用いて放送または有線放送を行った場合、実演家に二次使用料を支払うという定めを置いています(著作権法第95条第1項)。放送事業者は、常に生放送をしているわけではなく、番組を一旦収録した上で放送することも普通にあります。実演家またはその放送権の譲渡を受けた人から特定の実演を放送することについて許諾を受けた放送事業者は、放送に使う番組を収録する際に、当該実演を組み入れることができます(著作権法第93条第1項本文)。放送用番組を収録する際に、商業用レコードに収録されている実演を当該商業用レコードから組み入れた場合、当該放送用番組の放送に伴って商業用レコードから組み入れた実演も放送したときに、二次使用料支払義務が生ずるかは争いがあります。あるという人も多いのですが、文言解釈として無理がありますし、そもそも当該実演を放送することについて許諾を出しておきながら、その放送が生放送ではなく、収録ものだったという理由で、放送許諾料の他に二次使用料を取るのはおかしいと思います。

 放送事業者等としては、市販の音楽CDに収録されている実演を放送等で使用するに際していちいち実演家を探し出して二次使用料を支払う旨申し出るのは煩雑なので、「国内において実演を業とする者の相当数を構成員とする団体(その連合体を含む。)でその同意を得て文化庁長官が指定するもの」があるときは、その団体のみが、二次使用料を受ける権利を行使できるとされています(著作権法第95条第6項)。文化庁長官は、上記団体として、社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)を指定しています(昭和46年文化庁告示第6号)。なので、放送事業者等は、芸団協に二次使用料を支払い、芸団協が実演家にこれを配当するという運用になっています。

四 実演家の二次使用料請求権の範囲の拡大

 著作権法の令和8年改正においては、

① 実演が録音されている商業用レコードを用いてその実演を公に再生した場合、

② 商業用レコードに録音されている実演のうち公衆送信されているものを受信装置を用いて公に伝達した場合

にも、実演家(実際には芸団協)に二次使用料を支払わなければならないことになりました(著作権法第95条の2第1項、同第95条の3第1項)。

 上記の通り、従前の二次使用料は、実演の円滑な利用を図るために実演家の著作隣接権としての放送権・有線放送権が制限されることの代償として創設されたものでした。これに対し、令和8年改正法では、そもそも実演家の著作隣接権に含まれない「公の再生」「公衆送信される実演の受信装置を用いての公の伝達」について二次使用料請求権が創設されました。したがって、この両者は、位置づけとしては全く別物と理解するより他ありません。

五 公の再生

 新たに二次使用料を支払わなければならなくなった場合の1つは、録音権者の許諾を受けて商業用レコードに録音されている実演を、当該商業用レコードにより公に再生した場合です(著作権法第95条の2第1項)。

 「再生」という用語は、著作権法にはよく用いられていますが、特段定義規定は置かれていません。著作権法上の「レコード」の定義が「音を物に固定したもの」であることを考えれば、「再生」とは、レコードに固定された音を出すことをさすものと理解されます。レコードを通常の方法で再生機器にかけた場合に出される音と異なる音が出た場合に、音が再生されたと言えるのかは問題となります。DJ等が出す「スクラッチ音」では「音が再生された」と言えないという点は、おそらく争いがないのだろうと思います。ビニールレコードを逆回転させた場合や、CDプレイヤーからスピーカーまでの間にエフェクターを介在させて音を歪めた場合どうするかは問題となります。

 「公に」とは、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」特定の行為を行うことをいいます(著作権法第22条第1項)。したがって、「公に再生する」とは、「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として」商業用レコードに収録されている音を再生することを指します。

 著作権法上「公衆」には、特定かつ多数の者を含むものとされています(著作権法第2条第5項)。なので、大人数に聞こえるように商業用レコードに収録されている音を再生する行為が「公の再生」にあたることは争いの余地がありません。問題は、不特定かつ少数の者に直接聞かせる目的で音を再生した場合です。通説判例は、特定かつ少数の者も著作権上の「公衆」に含まれ、かつ、行為者との間に個人的な結合関係がある場合には「不特定」のものにあたると解します。

 そして、これにカラオケ法理を組み合わせると、例えば、図書館等で来館者に音楽CDを手交し、館内に設置されているCDプレーヤーでこれを再生する(来館者はヘッドフォンを通じてその音楽を1人で聴く)という場合も「公の再生」に含まれるとされる危険があります。

 もっとも、「営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けずに公に再生した場合」には二次使用料支払義務の対象となりますので(著作権法第95条の2第2項第1号)、多くの公立図書館は、上記のようなサービスを提供していても、二次使用料を免れることになります。

 漫画喫茶のような商業施設で「音楽CDの施設内貸出→館内の再生機での再生」というサービスをした場合には、カラオケ法理の適用により、事業者が二次使用料支払義務を負うことになりかねません。それ以前に、JASRACから演奏権侵害を問われる危険があるので、そういうサービスをしている漫画喫茶等はないと思いますが、理論的には、クラシック音楽等楽曲の著作権自体は保護期間が経過している音楽CDについてそういうサービスを行うことは考えられるわけで、その場合、実演家の著作隣接権の保護期間が経過していない限り(著作権法95条括弧書)、事業者は二次使用料の支払義務を負わされるリスクを負うことになります。

六 受信装置を用いての公の伝達

 新たに二次使用料を支払わなければならなくなった場合のもう1つは、録音権者の許諾を受けて商業用レコードに録音されている実演のうち公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達した場合です(著作権法第95条の3第1項)。録音権者の許諾を受けて送信可能化されている実演を受信装置を用いて公に伝達した場合も同様です(著作権法第94条の3第1項括弧書)。

 受信装置を用いて公に伝達するとは、公衆送信されている情報を受信装置が受信しリアルタイムで音声や映像という形で再現して、その場にいる公衆にその内容を知覚させることをいいます。著作物の公の伝達については著作権法第23条第2項で著作者がこれを専有する旨定められています。そこでは、公衆送信されている著作物を一旦記憶装置に記録した上で時間をおいて再生してその内容を公衆に知覚させる行為は、音のみの再生であれば公の演奏、映像または映像+音の再生であれば公の上映にあたるとされてしてきました(著作権法第2条第7項は、「この法律において、……「演奏」……には、著作物の……演奏……録音され……たものを再生すること……を含むものとする。」との規定があります。)。この著作権法第23条第2項の解釈がそのまま著作権法第95条の3第1項に当てはまる場合、公衆送信された音楽データを一旦記憶装置に蓄積しておき、時間をおいてこれを再生してその内容を公衆に伝達する行為は、著作権法第95条の3第1項の対象外ということになります(とはいえ、公衆送信された音楽データを一旦蓄積した記憶装置自体は、商業用レコードではないので、そこに記録されている音楽データを再生して公衆に直接聞かせても、著作権法第95条の2第1項の対象外となります。)。

 とりわけ問題となるのは、インターネットラジオで送信されている音楽データを店内のパソコンで受信して再生して客に聞かせている場合です。著作権法第47条の4第1項第1号は、

電子計算機における利用(情報通信の技術を利用する方法による利用を含む。……)に供される著作物は、次に掲げる場合その他これらと同様に当該著作物の電子計算機における利用を円滑又は効率的に行うために当該電子計算機における利用に付随する利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 電子計算機において、著作物を当該著作物の複製物を用いて利用する場合又は無線通信若しくは有線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受信して利用する場合において、これらの利用のための当該電子計算機による情報処理の過程において、当該情報処理を円滑又は効率的に行うために当該著作物を当該電子計算機の記録媒体に記録するとき。

と定めており、この規定は、著作権法第102条第1項により著作隣接権に関しても準用されるとされています。つまり、インターネットラジオのクライアントソフトで、受信したデータを一旦ハードディスクにキャッシュとして記録しておき、PCが音を再生するにあたってはキャッシュとしてハードディスクに記録していたデータを読み込んで行うということが可能です。この場合、送信されるデータを受信してそのまま再生するのではなく、ハードディスクに記録されているデータを再生するということですから、公の伝達ではなく、公の演奏ということになります。そうすると、二次使用料支払いの対象からはずれるということになります。

 また、著作権法第95条の3第1項の二次使用料は、「商業用レコードに録音されている実演のうち公衆送信されるもの」を受信して公に伝達した場合に生じます。「商業用レコードに録音されている実演を公衆送信」するとは、その実演が収録されている商業用レコード自体をプレイヤーにかけて実演を再生し、それをそのまま公衆送信(放送・有線放送・自動公衆送信等)することをいいます。一旦番組を収録し、その際に商業用レコードに収録された実演を再生してテープ等に収録してこれに組み入れた場合、そのテープ等を用いて番組を再生して公衆送信することが「商業用レコードに録音されている実演を公衆送信」することに含まれるかは、著作権法第95条1項の場合と同様に争いが生じ得ます。ただ、有線放送事業者や配信(自動公衆送信)業者が録画撮りのコンテンツを製作する場合、公衆送信についてのみならず、公衆送信用のコンテンツ製作のための録音についても許諾を得ているはずなので、さらにこれを受信して公衆に伝達する事業者に二次使用料を支払わせるのは二重取りになるように思います。

 なお、放送、有線放送されるものの他、自動公衆送信されるもののうち、特定入力型自動公衆送信または放送同時配信されるものを受信して公の伝達を行う場合、無償かつ非営利であれば、二次使用料の支払い義務を免れます(著作権法第95条の3第2項第2号)。逆に言えば、それ以外の態様で自動公衆送信されたものを受信して公に伝達する場合、無償かつ非営利だからと言って、二次使用料の支払い義務を免れることはできません。

 また、放送、有線放送されるものの他、自動公衆送信されるもののうち、特定入力型自動公衆送信または放送同時配信されるものを受信して公の伝達を行う場合、通常の家庭用受信装置を用いる分には、二次使用料の支払い義務を免れます。逆に言えば、それ以外の態様で自動公衆送信されたものを受信して公に伝達する場合、通常の家庭用受信装置を使用しているからと言って、二次使用料の支払い義務を免れることはできません。

七 権利制限規定の準用

 著作権法第95条の2第2項第2号は、著作権法第102条第1項において準用される著作権法第30条の2等の規定により公に再生した場合には、二次使用料に関する規定は適用されないものとしています。著作権法第95条の3第2項第3号も、著作権法第102条第1項において準用される著作権法第30条の2等の規定により公に伝達した場合には、二次使用料に関する規定は適用されないものとしています。しかし、困ったことに実演の公の再生も実演の公の伝達も、それ自体は、著作隣接権の内容に含まれていないので、著作権法第30条の2等の規定により実演が公に再生されるという事庭が生じません。

 しかも、著作権法第95条の2も著作権法第95条の3も、商業用レコードに録音されている実演に関する規定なのに、列挙されている権利制限規定の中には、商業用レコードに録音されている実演(当然音のみです。)に適用することが通常あり得ないものが多々含まれています(どのような権利制限規定が列挙されているか、下記のとおり表にしてみました。)。ちょっとこの部分をどう理解したらいいのか、考えあぐねているところです。

 
条文 公の再生 公の伝達 概要
第30条の2 付随対象著作物の利用(写り込み)
第30条の3 検討の過程における利用
第30条の4 思想又は感情の享受を目的としない利用(AI学習等)
第31条第7項(第2号に関する部分に限る) 国立国会図書館による絶版等資料の自動公衆送信等
第31条第9項(第2号に関する部分に限る) 国立国会図書館による絶版等資料の自動公衆送信等
第32条第1項 引用
第33条第1項 教科用図書(教科書)への掲載
第33条第2項 教科書に掲載された著作物の利用(音声教材等)
第33条第5項 高等学校の通信教育用学習図書等への掲載・利用
第33条の2第1項 視覚障害者等のための教科用特定図書等(拡大教科書等)の作成
第33条の2第2項 教科書代替教材(デジタル教科書等)への掲載・使用
第35条第1項 教育機関における授業の過程における複製・利用
第41条 時事の事件の報道のための利用
第41条の2第2項 裁判手続等における公衆送信・利用
第42条 立法又は行政の目的のための複製・利用
第42条の3 行政機関情報公開法等による開示手続における利用
第42条の4第2項 公文書管理法等に基づく公文書等の管理・開示手続における利用
第46条 公開の美術の著作物等の利用(屋外建造物などの撮影・放映)
第47条の4 電子計算機におけるデータ処理等の効率化等のための複製等(キャッシュ等)
第47条の5第1項 電子計算機による情報処理及びその結果の提供のための利用(検索エンジン等)