利用規約に同意し、かつ所定のツールによる検証をクリアした人のみがアクセスできることになっていれば、「特定の者に提供する情報として」管理されていると言えるか。
X(株式会社プロテラス)は、各パチンコホールの設置されたパチンコ玉の出玉データ等の情報やその動向を表やグラム等で表示する、スマーホン向けのWebサービス(テラスモバイル2)を提供していた。顧客が上記Webサイト上の特定のパチンコホールに関するWebページにアクセスし、同ホールの台データを閲覧しようとすると、画面に利用規約が表示され、これに同意しないと台データを閲覧できないようになっていた(ただし、ユーザー登録をする必要はなく、パスワード認証をする必要はない。)。また、上記Webサイトには、botによるデータの自動収集を回避するために、Cloudflare Turnstileという検証手段が用いられていた。
Zは、botを用いて上記Webサイト上に表示された台データを取得した上で、YがZに提供するレンタルサーバを用いて開設しているウェブサイト上に記事を投稿した。
Xは、Zがbotを使って上記台データを取得した上で上記記事を投稿した行為が、限定提供データ不正取得行為により取得した限定提供データの開示行為にあたるとして、Zの発信者情報を保有しているYに対し発信者情報開示命令を申し立てた。これが却下されたので、Xは、裁判所に対し、異議の訴えを提起した。
原告が保有する台データを閲覧するためには、本件利用規約への同意とCTによる検証を通過する必要こそあるものの、ユーザー登録を求めるなどのデータにアクセスする者を特定、限定するための措置などが講じられているわけではなく、上記台データは、その提供相手を誰とするかについて、原告の選択や裁量が入る余地のないまま、インターネット上で上記同意等の手続に応じさえすれば、何人たりとも無償で提供を受けることのできる情報であるところ、そもそも、不特定の者に提供されている情報であって、「特定の者」に対して提供されている情報とはいえない。
(中略)
不競法上の限定提供データは、あくまで、特定の「者」に対して提供し ている情報につき、これを電磁的方法により管理していることを求めているの であるところ、botによるアクセスを制限していることをもって、データにアクセスする「者」を限定することができているわけではなく、限定提供デー タとしての要件が充足されるとは解し得ない。
不正競争防止法第2条第7項は、「この法律において『限定提供データ』とは、業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができない方法をいう。次項において同じ。)により相当量蓄積され、及び管理されている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。)をいう。」としている。
「特定の者」に提供される情報のみを「限定提供データ」としたのは、無限定に提供されているデータについては、あえて不正競争防止法による保護を与える必要がないからである(小倉秀夫他編「新版不正競争防止法コンメンタール」497頁(高瀬亜富執筆担当)。
従前、本項の「特定の者」とは、「一定の条件の下でデータ提供を受ける者」をいい(前掲・高瀬497頁)、例えば、「使用許諾契約を締結した会員であればデータ提供を受けられるような多数の利用者向けのサービス」などもこれに当たるとされてきた(前掲・高瀬497頁)。
今日、ウェブを介して行われるデータ提供サービスの多くは、予め事業者側が設定した手続に応じさえすれば、何人たりとも情報の提供を受けられるようになっており、事業者側で選択や裁量が入る余地がないようになっている。有料サービスですら、クレジットカード会社が提供する認証サービスをクリアすれば、情報提供事業者の選択や裁量が入る余地なく、所定の情報が提供されるようになっている。
そのような形で情報が提供されている場合にはおよそ「不特定の者」に提供されている情報に当たるから「限定提供データ」に当たらないと言うことになると、「限定提供データ」の範囲は、当初想定されていたものよりも、かなり限定されたものとなりそうである。
裁判所のウェブサイトで公開されている範囲内ではZが掲載した記事の内容が明らかではなく、また、判決文を読む限りでは、顧客たるパチンコ愛好者に無償で提供されている情報を「限定提供データ」として保護すべき実質的な理由が明らかではない。あるいは、そのあたりの主張が弱かったので、上記台データについては要保護性が低いと受け取られた可能性はある。しかし、情報提供者が(どんな条件の人にではなく)誰に情報を提供するかについて選択したか否かによって情報提供先の「特定」性の有無が決まるかのように読める本裁判例は、「限定提供データ」にかかる請求のハードルを無駄に高くしてしまったように思われる。